藤沢周平「未刊行初期短編」を読む

12.01.24


 文春文庫の藤沢周平「無用の隠密 未刊行初期短編」を読みました。2006年に、藤沢周平が作家デビューを果たす前の作品が見つかったというニュースは、耳にしていました。そして、その年のうちに「藤沢周平 未刊行初期短編」として、刊行されたことも知ってはいました。しかし、今まで、あえて手をつけずにきました。

 大の藤沢ファンを自認して、これまで刊行された作品はすべて、何度も読んできました。それだけに、あの藤沢周平が、初期にはこんなものを書いていたのか、などと思うのが怖くて、藤沢周平への信仰にも似た思いに傷がつくかも知れないことを恐れて、避けてきたように思います。

 ところが先日、とうとう買ってしまいました。そして、やっぱり読みはじめたら止まりませんでした。

 2006年に発見されたものに、さらにその翌年発見された一篇を加えた15作品が収められています。最初の作品「暗闘風の陣」(1962年)というのを読んでみると、やはりデビュー後の作品とは違う拙劣さや展開の無理があって、これはやめた方がいいかな、と思いました。ところが、生意気なことに、あの藤沢周平でも最初は、こうだったのだなぁ、などと思うと、なんだか生の藤沢周平に出会ったような親しみが湧いてきました。そして、次々と読み進んでいくうちに、藤沢周平はどんどん藤沢周平になっていくではありませんか。「木曾の旅人」や「浮世絵師」など、のちの作品の原型になる作品もありました。

 解説の阿部達二氏いわく、これらの作品は、1971年、「オール読物新人賞」を獲って、作家として走り始める前のいわば助走の時期のもの。しかし、やっぱり十分、藤沢周平でした。

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