非正規労働者の真実とたたかい、小説「時の行路」を読む

17.08.20


 「時の行路」(田島 一、新日本出版社)を読み終わりました。2010年9月から翌年6月まで、9か月以上にわたって「しんぶん赤旗」に連載された小説です。上下二段組で366ページという大作。帯の宣伝にある通り、「非正規労働者の真実、連帯と希望を描く意欲作!」です。
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 北関東のT県や南関東のK県の大手自動車メーカー「三ツ星」の工場を舞台に、そこで働く派遣労働者が、利潤追求第一の大企業の論理に翻弄され生活を壊され、しかし、それに屈することなく、たたかいに立ち上がっていく壮大な人間ドラマです。

 青森県八戸から、派遣労働者としてT県の工場にきた五味洋介。40代後半になる彼は、一部上場企業の販売店をリストラされ、自ら始めたフランチャイズ店の経営にも挫折、新築した家も手放して、単身青森を離れ、収入を得るために懸命に働いて3年になる。大学受験を控えた長男とその下に弟妹。青森で必死に子どもたちとの生活を守る妻。その洋介に、会社は突然、契約解除、つまり解雇を通告する。

 末期のがんで入院中の父親、ダブルワークで必死に働きつつ暮らしを支える母。そんななか大学進学をあきらめた山路由香里は、「事務用機器操作」という契約で、やはりT県の工場に派遣され、4年以上も働いてきた。彼女も、突然の契約解除にさらされた。

 そして、「三ツ星」社員の福武昌弘。あらゆる差別に屈することなく、日本共産党の看板を背負って、K県の工場門前や社宅に職場新聞を届け続け、正規・非正規を問わず多くの労働者からの相談に乗っている。養成工として入社以来、勤続40年、あと数年で定年を迎える。エンジンの性能試験や排ガス測定など、いわばエンジンの「試験屋」として、長期の海外出張も経験してきた。

 さらに、「派遣切り」にあった一人ひとりに心を寄せてともにたたかうJMIU三ツ星支部の書記長・星河。派遣切りにあい、しかし、JMIUに結集してたたかう組合員を一人一人訪ね、励まします。長男がせっかく入った大学を中退したことを知り、一人切なさに身をよじる五味洋介に、青森の地酒を買いに走り、公園で一緒に飲む。思わずほろりとさせられました。

 こうした人々の人としてまっとうに生きるためのたたかいと生きざまが、丁寧に描かれています。帯には「おれたちは都合のいい消耗品じゃない。泣き寝入りはしないぞ、組合をつくってたたかうんだ」とありました。

 実は、先日のアルプス旅行で、主人公の一人、福武昌弘さんことFさんとご一緒しました。福武さんも奥さんとご一緒で、その仲睦ましい姿にほのぼのとさせられたのですが、穏やかで優しく、時におちゃめな福武さんからは、大企業相手に人間の尊厳をかけて一歩も引かない闘士といった印象はまったくうかがえませんでした。

 空港での出発時間待ちのときなど、ふと気づくと奥さんと二人で、お店に入ってビールを飲んでいたりしました。こちらに気づいて、にっこりする笑顔は、まさに天下一品という感じでした。小説のなかにも、自宅で奥さんとビールを飲みながら語り合う場面が出てきましたが、目に浮かぶどころか、まるで同席しているかのような印象でした。

 旅行中の話のなかで、福武さんの来し方を知り、「時の行路」のことを教えられ、帰ったら必ず読むとは言ったものの、あれやこれやの仕事に追われ、なかなか手に取る時間がありませんでした。

 いま、「時の行路」の映画化の話があるそうです。いろいろ困難はあるでしょうが、ぜひ実現してもらいたいと思います。

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